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退職給付会計①-退職給付会計とは [会計処理-退職給付会計]

1. 退職給付会計

 退職給付とは、退職一時金や、退職年金といった従業員の退職に伴って支給される退職金のことをいいます。企業にとって、退職給付は従業員に対する負債です。従業員の勤務期間が増えるほど、企業は退職給付の支払額が年々、大きくなっていきます。
 会計上、企業はこのような実態を、毎期のB/S及びP/Lに適切に反映させる必要がありますが、退職給付は実際の支払額が確定するまでに時間がかかるため、毎期の負担額を正確に把握することは困難であるといえます。そこで、毎期の負担額を合理的に見積るために、一定の方法が定められました。この方法が退職給付会計です。
 「退職給付に関する会計基準」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」が公表され、平成24年5月17日に公表されました。未認識数理計算上の差異等をオンバランスする等、国際的な会計基準とのコンバージェンスを図る観点から改正が行われています。

2. 退職給付債務
【留意点】
 退職給付は、従業員の勤務期間に応じて年々増えていくことから、従業員に対する後払いの労働対価であると考えられます。
 退職給付債務とは、将来見込まれる退職給付の支払総額のうち、当会計期間までに発生していると認められる部分をいいます。
【図1-1】
 20170909退職給付会計.jpg

3. 退職給付債務の毎期発生額と、割引計算
【留意点】
 退職給付債務の毎期発生額は、期間定額基準または給付算定式基準により見積られます。
 退職給付は支出までに相当の期間があることから、退職給付債務の算定の際には、時間価値を考慮して、割引計算を行う必要があります。
【図1-2】
 20170909退職給付会計2.jpg
期間定額基準

 将来の退職給付見込額を従業員の勤務期間で割った額を、毎期の発生額とする方法です。上記図表の前提であれば、3年目の退職給付見込額は300であり、各期の発生額は100(=300÷3年)となります。
 20170909退職給付会計3.jpg
 なお、将来の退職給付見込額は、予想される昇給および従業員の退職率や死亡率などさまざまな変動要因を加味して、見積られます。

給付算定式基準
 20170909退職給付会計4.jpg
 退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法です。従業員が1年以内に退職した場合には200の退職一時金、1年超3年目以内に退職した場合には300の退職一時金が支給されるという前提であれば、各期の発生額は1年目200、2年目50(={300-200}÷2年)、3年目50(={300-200}÷2年)となります。


 なお、期間定額基準と同様に、将来の退職給付見込額は、予想される昇給および従業員の退職率や死亡率などさまざまな変動要因を加味して、見積られます。

割引計算

 割引計算とは、将来の価値を現在の価値に置き直す際に用いる計算です。
 上記の【図1-2】における「※1年目発生分」を例にした場合、割引計算の考え方は以下の【図1-3】のようになります。
【図1-3】
 20170909退職給付会計5.jpg

計算方法

 期間定額基準を採用した場合、退職給付見込額300のうち、1年目に発生したと見積られる額は100となります。しかし、この3年目の100は、1年目で発生した退職給付債務に見合う金融資産を、利率2%で運用したと仮定した前提です。よって、この3年目の100には2年分の利息が含まれていることとなります。従って、2年目及び1年目現在の退職給付債務を算定するためには、それぞれ以下のような計算式により、利息部分を除外する必要があります。
 2年目(※1)... 100÷ 1.02 =98.03... ≒ 98
 1年目(※2)... 100÷(1.02)2=96.11... ≒ 96

4. 割引率
【留意点】
 割引率とは、割引計算を行うための計算上の利率をいいます。
 退職給付債務の割引計算に用いる割引率は、国債、政府機関債、優良社債といった安全性の高い債券の利回りを基礎として決定しますが、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければなりません。

割引率はなぜ安全性の高い債券の利回りを基礎とするのか

 例えば、業績が悪く倒産する危険性が高い会社の社債などは、その利率も高くなる傾向にありますが、ここで用いる割引率は、退職給付債務の計算に利用する目的であるため、倒産などのリスク要因は極力、排除する必要があります。従って、倒産といった信用リスク要因がほとんどないと考えられる国債、政府機関債や優良社債の利回りを基礎として割引率を決定することが一般的です。

退職給付支払ごとの支払見込期間を反映する方法

 割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければなりません。例えば、(1)退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、(2)退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法があります。
【設例】
前提条件
 例示の簡略化のため、退職給付は一時金制度のみを採用しているものとし、退職率等の基礎率は考慮しないものとします。 各年度の退職給付見込額は以下のとおりとします。
 20170909退職給付会計6.jpg
 割引率は優良社債の利回りを基礎に決定しているものとし、以下のとおりとします。(ここでは仮の数値を使用しています。)
 20170909退職給付会計7.jpg

(1)単一の加重平均割引率を使用した場合
 給付見込期間と給付見込金額を用いて加重平均した年数2.43年(※)を算出し、その年数に応じた利回りを基礎として割引率を算定します。
※2.43年=(50×1年+100×2年+200×3年)÷(50+100+200)

(2)複数の割引率を使用する方法

 1年後の退職給付見込額50については1%、2年後の退職給付見込額100については2%、3年後の退職給付見込額200については3%の割引率を用います。

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退職給付会計②-退職給付引当金と退職給付費用 [会計処理-退職給付会計]

1. 退職給付引当金と退職給付費用との関係

【留意点】
 退職給付は、個別財務諸表上、主に「退職給付引当金(B/S)」と「退職給付費用(P/L)」の二つの勘定科目によって処理されます。当該二つの科目は、【図2-1】のとおり、退職給付引当金の1会計期間の増加額と退職給付費用の金額が一致するという関係を有しています。
※この回では個別財務諸表における処理を前提としています。
 退職給付引当金と退職給付費用の関係を図表によって示した場合、【図】のとおりとなりま
す。なお、退職給付引当金については、期首残高と期末残高の内訳との関係も併せて示しています。
【図2-1】
 20170906退職給付会計.jpg

 退職給付引当金と退職給付費用それぞれについて、以下、具体的に解説していきます。

2. 退職給付引当金の構成要素

【留意点】
 企業の退職給付に係る実態をB/Sに表す際には、退職給付引当金として計上を行います。 退職給付は将来の退職給付見込額など、見積りの要素を多く含む会計項目であるため、会計上の見積りである「引当金」としてB/Sに計上されます。

 退職給付引当金の内訳を図表で示すと、【図2-2】のとおりとなります。
 退職給付引当金は、退職給付債務から年金資産を差し引いた金額に、未認識数理計算上の差異と未認識過去勤務費用を加減算して算出します。以下、退職給付引当金の各構成要素の基本的な内容について、説明します。
【図2-2】
 20170906退職給付会計2.jpg

退職給付債務
 退職給付債務は、将来見込まれる退職給付の支払総額のうち、当会計期間までに発生していると認められる部分をいい、割引計算により算出されます。

年金資産
 年金資産とは、従業員への退職給付支払いのためだけに使用することを目的として、年金基金等の企業外部に積み立てられた資産をいいます。年金基金等は、企業からの拠出金を元本として株式や債券により運用を行い、従業員が退職した際に直接、退職給付を支払います。また、期末における年金資産の金額は、期末時点の「公正な評価額」、いわゆる「時価」により評価されます。

未認識数理計算上の差異

 数理計算上の差異とは、退職給付における見積数値と実績数値との差をいいます。数理計算上の差異の内容についての詳細は、次回以降に解説しますが、この数理計算上の差異は、発生した期に一括で損益計上する他に、翌期以降で規則的に償却することが認められています。翌期以降で規則的に償却する処理を遅延認識といいますが、遅延認識している場合に、まだ損益計上されていない未償却部分を、未認識数理計算上の差異といいます。
 なお、数理計算上の差異は、退職給付債務及び年金資産の、いずれにおいても発生する可能性があります。

未認識過去勤務費用

 過去勤務費用とは、例えば退職給付水準を改訂したことなどにより、退職給付債務が増減した場合に、この増加又は減少した部分をいいます。この過去勤務費用についても数理計算上の差異と同様に、遅延認識することが認められており、遅延認識する場合に、まだ損益処理されていない未償却部分を未認識過去勤務費用といいます。過去勤務費用は、退職給付債務においてのみ発生し、年金資産には発生しません。


3. 退職給付費用の構成要素
【留意点】
 企業の退職給付に係る実態をP/Lに表す際には、退職給付費用として計上されます。退職給付費用は、当期の会計期間において退職給付引当金が増加した部分としてP/Lに表されます。
退職給付費用の構成要素を図で示すと【図2-3】のとおりになります。
【図2-3】
 20170906退職給付会計3.jpg

勤務費用及び利息費用

 勤務費用とは、退職給付見込額のうち当期の労働の対価として発生したと認められる部分をいいます。また、利息費用とは、期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息をいいます。いずれも、退職給付債務に関して発生する退職給付費用です。

期待運用収益

 期待運用収益とは、年金資産により当期に獲得が期待される、運用上の収益額です。期待運用収益は、期首の年金資産残高に対して、長期期待運用収益率を乗じることにより算定します。

未認識数理計算上の差異・処理額

 未認識数理計算上の差異について遅延認識を行っている場合に、当期において損益処理を行った部分です。

未認識過去勤務費用・処理額

 未認識過去勤務費用について遅延認識を行っている場合に、当期において損益処理を行った部分です。


4. 具体的な算出方法

【留意点】
 退職給付引当金は、勤務費用などの退職給付費用の発生により増加する一方で、会社が退職者に退職給付を直接支給する場合や、年金資産へ掛金を拠出することによって減少します。これら増減項目を集計し、仕訳に反映させた結果として、退職給付引当金の期末残高が決まることになります。
 まず、B/Sにおける退職給付引当金勘定の増減を図で示した場合、【図2-4】のとおりになるとします。
【図2-4】
 20170906退職給付会計4.jpg
この場合、退職給付引当金の④期末残高は以下のような計算式によって算出されます。

④期末残高
=①期首残高1,200+②増加(退職給付費用)500-③減少(支給又は掛金拠出)300=1,400【図2-4】の、退職給付引当金の「期首残高」「増加」「減少」「期末残高」それぞれの内容について、「1.退職給付引当金と退職給付費用との関係」の【図2-1】で示した具体的な数値例を基に、以下で説明していきます。
期首残高
【図2-5】
 20170906退職給付会計5.jpg

 退職給付引当金・期首残高は、期首時点における退職給付引当金の各構成要素の残高金額に基づいて算出します。各構成要素の期首時点の残高は、【図2-5】の数値を前提とします。

増加(退職給付費用)
【図2-6】
 20170906退職給付会計6.jpg

 1会計期間における、退職給付引当金の増加分は退職給付費用としてP/Lに計上されます。退職給付費用は、勤務費用及び利息費用から期待運用収益を差し引き、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理額を加減算して算出します。
【図2-6】の数値例によると、退職給付費用の算出方法は以下のとおりです。
  ②退職給付費用=⑨570+⑩10+⑪20-⑫100=500
また、仕訳として表した場合は、以下のとおりです。
(借方)退職給付費用 500  (貸方)退職給付引当金 500
 ここで、退職給付費用のうち勤務費用及び利息費用は、退職給付債務の増加要因となる一方、期待運用収益は年金資産の増加要因となります。
 従って、当期の退職給付費用により、退職給付債務は570増加し、年金資産は100増加すると見積られます。

減少
 会社が直接、退職者に対して退職給付を支給した場合、将来の支給見込額である退職給付債務は減少します。【図2-4】の数値例では③300が支給されているので、退職給付債務は300減少することになります。
【図2-4】の数値例を仕訳に表した場合は、以下のとおりとなります。
(借方)退職給付引当金 300  (貸方)現金預金 300
企業年金制度を採用している場合の、外部の企業年金基金等への掛金の拠出についても、上記と同様の仕訳により処理します。
期末残高
【図2-7】
 20170906退職給付会計7.jpg

 退職給付引当金・期末残高を算出する際には、その構成要素ごとの期末残高を算出する必要があります。
【図2-7】の数値例の場合、各構成要素それぞれの期末残高は以下のように算出します。
なお、当期において新たな数理計算上の差異及び過去勤務費用は発生していないと仮定します。
 ⑬退職給付債務=⑤期首1,950+⑨勤務費用・利息費用570-③退職給付支給300=2,220
 ⑭年金資産=⑥期首600+⑫期待運用収益100=700
 ⑮未認識数理計算上の差異=⑦期首50-⑩処理額10=40
 ⑯未認識過去勤務費用=⑧期首100-⑪処理額20=80
上記構成要素を基に、退職給付引当金の期末残高を算出した場合は以下のとおりです。
④退職給付引当金(期末)=⑬2,220-⑭700-⑮40-⑯80=1,400
従って、期末のB/Sに計上される退職給付引当金の金額は1,400となります。

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退職給付会計③-退職給付費用 [会計処理-退職給付会計]

1. 退職給付費用

【留意点】
 退職給付費用は、1会計期間の退職給付引当金の増加額であるとともに、企業の退職給付に関して発生したコストを示すものです。退職給付費用を構成する内容について、要因別に見ていきます。
 20170903退職給付会計.jpg

以下、退職給付費用を構成するそれぞれの項目について、具体的に解説していきます。

2. 勤務費用と利息費用

【留意点】
 勤務費用とは、退職給付見込額のうち当期の労働の対価として発生したと認められる退職給付をいいます。また、利息費用とは、期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息をいいます。
 退職給付債務の毎期発生額は、期間定額基準または給付算定式基準により見積られます。従業員の将来の退職給付見込額は、毎期発生する勤務費用の積み上げですが、一方で退職給付債務は割引計算を行う必要があるため、各期で発生した勤務費用にはその後の退職までの期間に応じて利息費用が発生することになります。

 ある1名の従業員について、勤務費用と利息費用の発生を図で示した場合、以下のとおりになります。
 20170903退職給付会計2.jpg
 上記の図に関して、各期の勤務費用と利息費用を算出するためには、退職を迎える期である第3期から見ていく必要があります。すなわち、第3期における退職給付見込額300を勤務年数で割った金額100が各期の退職給付債務発生額となりますが、当該金額には、それぞれ時の経過に応じて発生した利息費用が含まれています。従って、各期の勤務費用を求めるためには、以下のような割引計算を行い、利息費用と勤務費用を区別して把握する必要があります。

各期別の勤務費用と利息費用は、以下の表のように発生します。
 20170903退職給付会計3.jpg

勤務費用の算定方法
 まず、勤務期間3年・退職給付見込額300のため、年度ごとの内訳は300÷3年=100
 従って当該100を、各発生年度まで割引いて、それぞれの勤務費用を算定します。
 第1期...100÷(1.02)2=96
 第2期...100÷1.02=98
 第3期...100

利息費用の算定方法
 期首の退職給付債務残高に割引率を乗じて算定します。
 第1期...期首が0のため、利息費用は発生しない。
 第2期...期首96×割引率2%=2
 第3期...期首196×割引率2%=4


3. 期待運用収益

【留意点】
 期待運用収益とは、年金資産により当期に獲得が期待される、運用上の収益額です。
 期待運用収益は、期首の年金資産残高に対して、長期期待運用収益率を乗じることにより算定します。
 年金資産とは、従業員への退職給付支払いのために企業が外部の企業年金基金等に掛金の拠出を行い、積み立てている資産をいいます。年金資産は主に株式や債券等から構成されているため、毎期運用上の収益が生じることになります。
 しかし、期末の年金資産の実際の運用結果を待ってからでは毎期の退職給付計算に間に合わないため、一定の長期期待運用収益率を用いて期待運用収益を算定し、退職給付計算に反映することとなります。期待運用収益の発生のイメージを図にすると、以下のとおりです。
 20170903退職給付会計4.jpg

期待運用収益の算定方法

 各期の期待運用収益は、年金資産期首残高に対して長期期待運用収益率を掛けることにより算定します。算定された期待運用収益は、各発生年度の退職給付費用のマイナスとして会計処理されます。
 第1期...期首1,000×長期期待運用収益率3%=30
 第2期...期首1,300(=第1期・期首1,000+掛金拠出270+実際運用収益30)×長期期待
 運用収益率3%=39


4. 数理計算上の差異

【留意点】
 数理計算上の差異とは、退職給付における見積数値と実績数値との差をいいます。数理計算上の差異が発生するパターンとしては、大きく二つに区別できます。
 また、数理計算上の差異は費用(又は収益)として処理する際に、遅延認識を行うことができます。
 数理計算上の差異とは、退職給付計算において予測と実績が乖離する場合、又は予測数値の修正等により生じる差異をいいます。数理計算上の差異は、主に以下の二つのパターンに起因して発生します。

<パターン①>退職給付における数理計算の結果と実績との間に差異がある場合
 (1) 年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との間に差異がある場合
 年金資産の評価は期末時点の公正な評価額により行われます。しかし退職給付会計上、期末の年金資産の見積りは、期首の年金資産残高に長期期待運用収益率を乗じた結果である期待運用収益をもとに算出されるため、公正な評価額とは差異が生じる場合があります。
 20170903退職給付会計5.jpg
 上記図表にて示されている、年金資産から生じた数理計算上の差異10は、一定の方法により、退職給付費用のマイナスとして処理する必要があります。

(2) 退職給付債務の計算に用いた見積りと実績に差異がある場合
 退職給付債務の計算を行う際には、将来の退職給付見込額を見積る必要があります。そして、当該見積りは従業員の退職率や死亡率、予想される昇給率やベースアップ率などの計算基礎率を基に退職給付支給額や支給時期等を予測し、見積られることになります。従って、計算基礎率の見積りと実績に差異がある場合には、退職給付債務の見積りと実績に差が生じ、当該差異は数理計算上の差異になります。
(例)数理計算による退職給付債務の見積りが1,000、実績が1,200の場合
 20170903退職給付会計6.jpg
 上記の退職給付債務は、実績額が見積額を上回っているため、数理計算上の差異200は、一定の方法により、費用化していく必要があります。

<パターン②>計算基礎率を変更した場合

 退職給付計算における割引率や長期期待運用収益率、従業員の退職率などの計算基礎率を変更した場合、その変更における影響額は数理計算上の差異になります。
(例)変更前の基礎率で計算した退職給付債務の金額が1,000、変更後の基礎率で計算した退職給付債務の金額が1,200の場合
 20170903退職給付会計7.jpg
 変更後の基礎率で退職給付債務を再計算した結果生じた、数理計算上の差異200は、一定の方法により、費用化されることになります。
 各計算基礎率の変更を検討すべき場合としては、例えば以下の要因が考えられます。
 20170903退職給付会計8.jpg  それぞれの計算基礎率について、上記要因が生じた場合などには、退職給付計算上の計算基礎率を見直す必要があります。

 割引率の見直し

 割引率については、前期末に用いた割引率により算定した場合の退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定される場合には、期末の割引率を用いて再計算することが会計基準上求められています。単一の加重平均割引率を使用した場合は、当該見直しの要否を検討するための目安とすべき資料が日本年金数理人会、日本アクチュアリー会から公表されている「退職給付会計に関する数理実務基準 退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」付録1において示されています。
 20170903退職給付会計9.jpg
 例えば、前期末までの数理計算に使用されていた割引率が4%、退職給付債務のデュレーション(※)が20年であった場合、当該【付録1】によると「3.6~4.5」の範囲であれば計算後の退職給付債務が10%以上変動することはないと推定されるため、割引率を見直す必要がないものとされています。
 ※デュレーションとは、一般的には債券の回収期間をいいます。ここでは退職給付債務見込額を退職給付の支払見込期間ごとの現在価値で加重平均した期間をいいます。
 具体的には、企業が仮に20年物国債の金利を割引率の基礎としていた場合に、当期末時点の20年物国債の金利が当初の4%から下落したものの3.6%を下回らない場合、又は、上昇したものの4.5%を上回らない場合には、退職給付債務は10%以上変動することはないと推定されるため、割引率は見直さずに当初の4%をそのまま使用することが許容されます。
 しかし反対に、当期末に下限値である3.6%を下回った場合、又は上限値である4.5%を上回った場合には、退職給付債務が10%以上変動するものと推定されるため、割引率の見直しが必要です。
 例えば、当期末において20年物国債の金利が3.5%となることが見込まれる場合には、下限値である3.6%を下回っているため、割引率を3.5%として再度、退職給付債務を計算し直し、その結果、退職給付債務に10%以上の変動が認められる場合には、当該計算し直した結果を、退職給付債務の金額とする必要があります。
 この時、割引率4%で計算した場合の退職給付債務の金額と、割引率3.5%で計算した場合の退職給付債務の金額の差(上記図表では200)が数理計算上の差異になります。

5. 過去勤務費用
【留意点】
 過去勤務費用とは、退職給付水準を改訂したことなどにより、将来の退職給付見込額が変化し、それによって割引計算し直した場合の、退職給付債務の増減部分をいいます。
 退職給付水準が改訂されて、給付水準が上がった場合を前提とすると、過去勤務費用は以下の図表における斜線部分となります。すなわち、給付水準改訂前の退職給付債務と改訂後の退職給付債務の差額のうち、当期以前の期間に属する部分が過去勤務費用となります。
 20170903退職給付会計10.jpg
 過去勤務費用は、発生した各年度に一括で損益処理する方法のほか、その後の平均残存勤務期間以内の一定の年数により定額法又は定率法で損益処理する方法により会計処理されます。
 過去勤務費用は、例えば退職金規定の改訂に伴い給付水準が変更された場合の他、初めて退職給付制度を導入した場合で、計算対象が従業員の過去の勤務期間に及ぶ時などに発生します。
 なお、ベースアップにより退職給付債務が変動する場合は、退職金規定の改訂には当たらないため、過去勤務費用には該当しません。

6. 遅延認識
【留意点】
 数理計算上の差異と過去勤務費用は、会計処理の際に遅延認識が認められています。企業が一度採用した遅延認識の方法は、継続的に適用する必要があり、みだりに変更することはできません。
 数理計算上の差異と過去勤務費用は、発生した期に一括で損益処理する方法のほか、平均残存勤務期間以内の一定の年数による定額法又は定率法で損益処理する方法、いわゆる遅延認識が認められており、企業は継続適用を条件に、これらの方法を選択適用することができます。企業が遅延認識を採用した場合、数理計算上の差異及び過去勤務費用は発生の翌期以降に未償却部分が残ることになりますが、当該未償却部分はそれぞれ「未認識数理計算上の差異」及び「未認識過去勤務費用」と呼ばれます。
 また、それぞれの遅延認識時における処理年数については処理方法と同様、継続適用が求められており、一度採用した費用処理年数を変更する場合には合理的な変更理由が必要となります。なお、償却方法及び償却年数は、数理計算上の差異及び過去勤務費用それぞれごとに設定することができます。
 また、数理計算上の差異については、発生した期ではなく、その翌期より損益処理を開始することが特別に認められています。

遅延認識イメージ(償却例)
 例として第1期から第4期までの各期に発生した数理計算上の差異を、発生年度より10年の定額法で償却した場合の、各期の退職給付費用計上額算定のイメージは以下の表のとおりです。
 20170903退職給付会計11.jpg
 仮に、当期の会計期間が第4期なのであれば、未認識数理計算上の差異処理額(※)500を退職給付費用に加算する必要があります。
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退職給付会計④-退職給付会計の概要 [会計処理-退職給付会計]

1. 退職給付とは

 退職給付とは、一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に支給される給付をいいます(平成24年改正会計基準3項)。退職一時金、退職年金等がその典型です。
 退職給付の支給方法(一時金支給、年金支給)や退職給付の積立方法(内部積立、外部積立)が異なっているとしても、いずれも退職給付であることに違いはありません。なお、退職給付の性格に関して、賃金後払説、功績報償説、生活保障説といった考え方がありますが、退職給付に関する会計基準上は、退職給付は基本的に労働協約等に基づいて従業員が提供した労働の対価として支払われる賃金の後払いであると捉えています(平成24年改正会計基準53項)
 退職給付制度は、以下のとおり確定給付制度と確定拠出制度に区分され、それぞれ会計処理が異なります。確定給付制度を採用した場合、実質的に企業が長期債務を有することになり、計算された退職給付債務等を基礎として退職給付に係る負債の計上が必要になります。確定拠出制度を採用した場合、将来の退職給付について拠出以後に追加的な負担が生じないため、要拠出額を支払った時点で退職給付費用となり、退職給付に係る負債は計上されません。
 20170831退職給付会計.jpg

2. 確定給付制度

(1)退職一時金制度

 退職一時金制度とは、退職給付に対して外部積立を行わず、内部積立のみをもって一時金を支払う制度のことです。退職一時金は通常、就業規則等の退職金規程に基づき支払われます。
 内部積立のみということは、退職給付の原資となる資産はすでに貸借対照表の資産の部に計上されていることになるので、後述する年金資産のような会計処理は必要ありません。

(2)厚生年金基金制度

 厚生年金基金制度とは、企業が厚生年金基金を設立し、国の厚生年金保険の一部を代行するとともに、企業が独自の給付を上乗せする制度のことです。
 厚生年金基金制度においては、老齢厚生年金の報酬比例部分について国に代行して基金から支給することに加え、企業の実態に合わせて企業独自の給付を上乗せして支給するため、より手厚い給付金が確保されます。なお、給付形態には加算型、代行型及び共済型があります。
 厚生年金基金制度によると、企業が負担する掛金が全額損金算入でき、従業員が負担する掛金は所得税の社会保険料控除の対象になるという税務上のメリットがあります。

(3) 確定給付企業年金制度

 確定給付企業年金制度とは、確定給付企業年金法(平成14年4月施行)に基づいて定められた確定給付型の年金制度です。確定給付企業年金法は、確定給付型の年金について受給権保護等を図るために制定された法律で、積立基準、受託者責任、情報開示等統一的な基準を定めるとともに、厚生年金基金については、厚生年金の代行を行わない他の企業年金制度への移行を認めることなどが定められています。確定給付企業年金制度には、規約型企業年金と基金型企業年金の二つの種類があります。


3.確定拠出制度

(1)確定拠出年金制度

 確定拠出年金制度とは、従業員のために企業が、又は従業員が自身のために掛金を拠出して、退職時に年金などで受け取る制度です。この制度の特徴は、拠出した加入者自身が自ら選択した保険会社等の運用機関に運用の指示をし、運用実績次第で受け取る年金額が変動する点です。
 確定拠出年金には企業型と個人型の二つの種類に分類されます。なお、それぞれにより、拠出の限度額、拠出の方法等が異なることになります。
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(2)中小企業退職金共済制度

 中小企業退職金共済制度とは、昭和34年に中小企業退職金共済法に基づき設けられた中小企業のための国の退職金制度です。これは独自で退職金制度を構築するのが難しい中小企業の従業員に対する制度です。 企業が中小企業退職金共済事業本部(以下、中退共)と退職金共済契約を締結し、掛金を金融機関に拠出します。従業員が退職した際には、中退共から退職金が直接支払われることになります。
 加入要件は、企業の業種、従業員数、資本金等により定められており、掛金についても選択できるようになっています。
 また、企業が負担する掛金は全額損金算入できるという税務上のメリットがあります。

(3)特定退職金共済制度

 特定退職金共済制度とは、商工会議所等が、所得税法上の「特定退職金共済団体」を設立し、これを基礎として国の承認を得て退職金の積立を行う制度です。
 加入要件は、商工会議所の会員企業又は地区内に事務所があることであり、企業の業種、従業員数、資本金等に定めはありません。
 中小企業退職金共済制度との併用が可能な点もその特徴です。


4.退職給付に係る負債の内訳

 平成24年改正会計基準の適用後は、連結財務諸表と個別財務諸表で取扱いが異なることになります。
 連結財務諸表では、退職給付債務から年金資産の額を控除した額(積立状況を示す額)を「退職給付に係る負債」として計上します。ただし、年金資産の額が退職給付債務を超える場合には、「退職給付に係る資産」として計上します。(平成24年改正会計基準13項、27項)
【連結】
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一方、個別財務諸表では改正前と同様に、退職給付債務から年金資産を控除したものに、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額が退職給付引当金(資産として計上される場合は「前払年金費用」)となります(平成24年改正会計基準39項)。数理計算上の差異や過去勤務費用は、必ずしも発生年度に全額が費用処理されるわけではありません。そのため、貸借対照表や損益計算書に反映されていない残高が生じることがあり、これを未認識項目としています。
数理計算上の差異は年度ごと、過去勤務費用は退職給付水準の改訂等の発生時に把握されますが、借方項目、貸方項目のいずれにも発生します。
【個別】
  20170831退職給付会計4.jpg


5.損益計算書及び包括利益計算書上での取扱い

 平成24年改正会計基準の適用後も、損益計算書の当期純利益への影響はありません。
 退職給付費用は(1)勤務費用(2)利息費用(3)数理計算上の差異の費用処理額(4)過去勤務費用の費用処理額、及び(5)期待運用収益で構成されています(平成24年改正会計基準14項)。
 数理計算上の差異の費用処理額と過去勤務費用の費用処理額は、借方項目、貸方項目のいずれにも発生します。
 退職給付費用は通常、費用(借方項目)として計上されますが、未認識項目の処理額や期待運用収益の金額によっては、収益(貸方項目)が計上される場合もあります。
 一方、連結包括利益計算書においては、数理計算上の差異等の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異となる部分)については、「退職給付に係る調整額(その他の包括利益)」として計上されることとなります。また、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異等のうち、当期に費用処理された部分については包括利益計算書において、その他の包括利益の調整(組替調整)を行います(平成24年改正会計基準15項)。
 なお、上記の処理に当たっては税効果を調整します。
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退職給付会計⑤-退職給付債務と勤務費用・利息費用 [会計処理-退職給付会計]

1. 退職給付債務とは

 退職給付債務は、退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたものをいいます(平成24年改正会計基準6項)。

 退職給付債務は、予想退職時期ごとの退職給付見込額のうち期末までに発生したと認められる額を、退職給付の支払見込日までの期間(以下、支払見込期間)を反映した割引率を用いて割り引き、当該割り引いた金額を合計して計算します(平成24年改正適用指針14項)。

 退職給付債務は、原則として個々の従業員ごとに計算されます。ただし、勤続年数、残存勤務期間、退職給付見込額等について標準的な数値を用いて加重平均等により合理的な計算ができると認められる場合には、当該合理的な計算方法を用いることができます(平成24年改正会計基準注3)。

 この場合の「合理的な計算方法」には、従業員を年齢、勤務年数、残存勤務期間及び職種系体(経理部、営業部)などによりグルーピングし、当該グループの標準的な数値を用いて計算する方法が該当します(平成24年改正適用指針5項)。


2. 退職給付債務の計算手法

 具体的には、退職給付債務は、以下の手順により計算します。
(1)退職により見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)の見積り
(2)退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額の計算
(3)期末までに発生していると見積られる金額の割引計算

 ①退職により見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)の見積り

 退職給付見込額は、予想退職時期ごとに、従業員に支給されると見込まれる退職給付額に退職率及び死亡率を加味して見積ります(平成24年改正適用指針第7項)。

 退職給付見込額の計算において、退職事由(自己都合退職、会社都合退職等)や支給方法(一時金、年金)により給付率が異なる場合には、原則として、退職事由及び支給方法の発生確率を加味して計算し、合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考慮して見積らなければならないとされています。

 退職給付見込額の見積りにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には予想される昇給等が含まれるものとされています。また、臨時に支給される退職給付等であってあらかじめ予測できないものは、退職給付見込額に含まれないものとされています(平成24年改正会計基準 注5)。

 ②退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額の計算

 算定した退職給付見込額の各期への期間帰属方法として、次の二つの方法の選択適用が認められています(平成24年改正適用指針11項)。
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 ■期間定額基準のイメージ
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 ■給付算定式基準のイメージ
 給付算定式基準は、理解を容易にするため設例で説明します。
【設例】
 従業員が10年超20年未満の勤務後に退職した場合800の退職一時金を、従業員が20年以上の勤務後に退職した場合1,000の退職一時金を支給する。10年未満で退職した場合、退職一時金は支給しない。
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 最初の10年間(1~10年)の各年に80(800の退職一時金÷10年)、次の10年間(11~20年)の各年に20((1,000-800)の退職一時金÷10年)をそれぞれ帰属させ、期末までに発生していると認められる額を計算します。

 ③期末までに発生していると見積られる金額の割引計算
 期末までに発生していると見積られる金額を割引計算します。
 予想退職時期ごとの退職給付見込額のうち期末までに発生したと認められる額を、退職給付の支払見込日までの期間(支払見込期間)を反映した割引率を用いて割り引き、当該割り引いた金額を合計して、退職給付債務を計算します(平成24年改正適用指針第14項)。


3.勤務費用

 勤務費用とは、1期間の労働の対価として発生したと認められる退職給付をいいます(平成24年改正会計基準8項)。
 なお、従業員からの拠出がある企業年金制度を採用している場合には、勤務費用の計算に当たり、従業員からの拠出額を勤務費用から差し引くとされています(平成24年改正会計基準 注4)。
 勤務費用の計算には、退職給付債務の計算に準じて次を含めて計算します(平成24年改正適用指針15項)。なお、勤務費用の計算においては、期首時点で当期の勤務費用を計算する手法を用います。
(1)退職給付見込額の見積り

 退職給付見込額は、退職給付債務の計算において見積った額です。

(2)退職給付見込額のうち当期において発生すると認められる額の計算

 予想退職時期ごとの退職給付見込額のうち、当期において発生すると認められる額を計算します。当期において発生すると認められる額は、退職給付債務の計算において用いた方法と同一の方法により、当期分について計算します。

(3)勤務費用の計算

 予想退職時期ごとの退職給付見込額のうち当期に発生すると認められる額を、割引率を用いて割
り引きます。当該割り引いた金額を合計して、勤務費用を計算します。

■期間定額基準のイメージ
 勤務費用=退職給付見込額×当期勤務期間(1年)÷退職時点までの勤務期間×割引計算

■給付算定式基準のイメージ
 給付算定式基準は、以下の設例で説明します。
【設例】
 従業員が10年超20年未満の勤務後に退職した場合800の退職一時金を、従業員が20年以上の勤務後に退職した場合1,000の退職一時金を支給する。10年未満で退職した場合、退職一時金は支給しない。
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 最初の10年間(1~10年)は、毎年
  勤務費用=80(800の退職一時金÷10年)×割引計算
 次の10年間(11~20年)は、毎年
  勤務費用=20((1,000-800)の退職一時金÷10年)×割引計算
 と計算します。


4.利息費用

 利息費用は、割引計算により算定された期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息をいいます(平成24年改正会計基準9項)。

 利息費用=期首の退職給付債務×割引率

 ※ ただし期中に退職給付債務の重要な変動があった場合には、これを反映させる

【設例】
 Aさんが入社3年後に退職する場合(当期は2年目)の計算例

 (1)退職給付見込額の見積り
 →入社3年後の退職給付見込額の見積り結果は、300とします。

 (2)退職給付見込額のうち期末までに(当期において)発生していると認められる額の計算
 →期間定額基準を採用した場合、退職給付見込額300を3で割って、毎年100ずつ発生していると考えます。2年目に発生しているのは100(割引前の勤務費用)、累積で2年目までに発生しているのは200(割引前の退職給付債務)となります。

 (3)(2)で算出した金額の割引計算
→割引率を2%とすると、2年目の勤務費用は98.0(=100/(1.02)1)、2年目の退職給付債務は196.0(=200/(1.02)1)となります。
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 ■期首時点の退職給付債務に割引率を乗じたものが、利息費用となります。2年目であれば96.1×2%=1.9、3年目であれば196.0×2%=4.0となります。これは勤務費用の増加部分に相当します。
 ■1年目の退職給付費用(退職給付債務)は96.1(=100/(1.02)2)と計算されます。まとめるとAさんが3年目に退職する場合の計算は、以下のとおりとなります。
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 なお、Aさんが3年目に退職する確率が100%であれば、上の表のとおり、当期の勤務費用は98.0、利息費用は1.9、退職給付債務は196.0となります。しかし退職時期は通常不明であるため、想定される退職時期ごとにこのような計算を行い、退職時期ごとの計算金額に発生確率を乗じたものが最終的な計算結果となります。


5.退職給付債務の計算における貸借対照表日前のデータの利用

 貸借対照表日における退職給付債務は、原則として貸借対照表日現在のデータ及び計算基礎(以下、データ等)を用いて計算します。しかし、実際の計算のためには一定の期間を必要とすることも少なくないことなどから、貸借対照表日前の一定日をデータ等の基準日とすることが認められています(平成24年改正適用指針6項、73項)。

 この場合の方法として、以下の二つの方法があります。

(1)貸借対照表日前の一定日をデータ等の基準日として退職給付債務等を算定し、データ等の基準日から貸借対照表日までの期間の勤務費用等を適切に調整して、貸借対照表日現在の退職給付債務等を算定する方法

(2)データ等の基準日を貸借対照表日前の一定日とするが、当該一定日から貸借対照表日までの期間の退職者等の異動データを用いてデータ等を補正し、貸借対照表日における退職給付債務等を算定する方法

 いずれの場合にも、データ等の基準日から貸借対照表日までに重要なデータ等の変更があったときは退職給付債務等を再度計算し、合理的な調整を行います。


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