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退職給付会計②-退職給付引当金と退職給付費用 [会計処理-退職給付会計]

1. 退職給付引当金と退職給付費用との関係

【留意点】
 退職給付は、個別財務諸表上、主に「退職給付引当金(B/S)」と「退職給付費用(P/L)」の二つの勘定科目によって処理されます。当該二つの科目は、【図2-1】のとおり、退職給付引当金の1会計期間の増加額と退職給付費用の金額が一致するという関係を有しています。
※この回では個別財務諸表における処理を前提としています。
 退職給付引当金と退職給付費用の関係を図表によって示した場合、【図】のとおりとなりま
す。なお、退職給付引当金については、期首残高と期末残高の内訳との関係も併せて示しています。
【図2-1】
 20170906退職給付会計.jpg

 退職給付引当金と退職給付費用それぞれについて、以下、具体的に解説していきます。

2. 退職給付引当金の構成要素

【留意点】
 企業の退職給付に係る実態をB/Sに表す際には、退職給付引当金として計上を行います。 退職給付は将来の退職給付見込額など、見積りの要素を多く含む会計項目であるため、会計上の見積りである「引当金」としてB/Sに計上されます。

 退職給付引当金の内訳を図表で示すと、【図2-2】のとおりとなります。
 退職給付引当金は、退職給付債務から年金資産を差し引いた金額に、未認識数理計算上の差異と未認識過去勤務費用を加減算して算出します。以下、退職給付引当金の各構成要素の基本的な内容について、説明します。
【図2-2】
 20170906退職給付会計2.jpg

退職給付債務
 退職給付債務は、将来見込まれる退職給付の支払総額のうち、当会計期間までに発生していると認められる部分をいい、割引計算により算出されます。

年金資産
 年金資産とは、従業員への退職給付支払いのためだけに使用することを目的として、年金基金等の企業外部に積み立てられた資産をいいます。年金基金等は、企業からの拠出金を元本として株式や債券により運用を行い、従業員が退職した際に直接、退職給付を支払います。また、期末における年金資産の金額は、期末時点の「公正な評価額」、いわゆる「時価」により評価されます。

未認識数理計算上の差異

 数理計算上の差異とは、退職給付における見積数値と実績数値との差をいいます。数理計算上の差異の内容についての詳細は、次回以降に解説しますが、この数理計算上の差異は、発生した期に一括で損益計上する他に、翌期以降で規則的に償却することが認められています。翌期以降で規則的に償却する処理を遅延認識といいますが、遅延認識している場合に、まだ損益計上されていない未償却部分を、未認識数理計算上の差異といいます。
 なお、数理計算上の差異は、退職給付債務及び年金資産の、いずれにおいても発生する可能性があります。

未認識過去勤務費用

 過去勤務費用とは、例えば退職給付水準を改訂したことなどにより、退職給付債務が増減した場合に、この増加又は減少した部分をいいます。この過去勤務費用についても数理計算上の差異と同様に、遅延認識することが認められており、遅延認識する場合に、まだ損益処理されていない未償却部分を未認識過去勤務費用といいます。過去勤務費用は、退職給付債務においてのみ発生し、年金資産には発生しません。


3. 退職給付費用の構成要素
【留意点】
 企業の退職給付に係る実態をP/Lに表す際には、退職給付費用として計上されます。退職給付費用は、当期の会計期間において退職給付引当金が増加した部分としてP/Lに表されます。
退職給付費用の構成要素を図で示すと【図2-3】のとおりになります。
【図2-3】
 20170906退職給付会計3.jpg

勤務費用及び利息費用

 勤務費用とは、退職給付見込額のうち当期の労働の対価として発生したと認められる部分をいいます。また、利息費用とは、期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息をいいます。いずれも、退職給付債務に関して発生する退職給付費用です。

期待運用収益

 期待運用収益とは、年金資産により当期に獲得が期待される、運用上の収益額です。期待運用収益は、期首の年金資産残高に対して、長期期待運用収益率を乗じることにより算定します。

未認識数理計算上の差異・処理額

 未認識数理計算上の差異について遅延認識を行っている場合に、当期において損益処理を行った部分です。

未認識過去勤務費用・処理額

 未認識過去勤務費用について遅延認識を行っている場合に、当期において損益処理を行った部分です。


4. 具体的な算出方法

【留意点】
 退職給付引当金は、勤務費用などの退職給付費用の発生により増加する一方で、会社が退職者に退職給付を直接支給する場合や、年金資産へ掛金を拠出することによって減少します。これら増減項目を集計し、仕訳に反映させた結果として、退職給付引当金の期末残高が決まることになります。
 まず、B/Sにおける退職給付引当金勘定の増減を図で示した場合、【図2-4】のとおりになるとします。
【図2-4】
 20170906退職給付会計4.jpg
この場合、退職給付引当金の④期末残高は以下のような計算式によって算出されます。

④期末残高
=①期首残高1,200+②増加(退職給付費用)500-③減少(支給又は掛金拠出)300=1,400【図2-4】の、退職給付引当金の「期首残高」「増加」「減少」「期末残高」それぞれの内容について、「1.退職給付引当金と退職給付費用との関係」の【図2-1】で示した具体的な数値例を基に、以下で説明していきます。
期首残高
【図2-5】
 20170906退職給付会計5.jpg

 退職給付引当金・期首残高は、期首時点における退職給付引当金の各構成要素の残高金額に基づいて算出します。各構成要素の期首時点の残高は、【図2-5】の数値を前提とします。

増加(退職給付費用)
【図2-6】
 20170906退職給付会計6.jpg

 1会計期間における、退職給付引当金の増加分は退職給付費用としてP/Lに計上されます。退職給付費用は、勤務費用及び利息費用から期待運用収益を差し引き、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理額を加減算して算出します。
【図2-6】の数値例によると、退職給付費用の算出方法は以下のとおりです。
  ②退職給付費用=⑨570+⑩10+⑪20-⑫100=500
また、仕訳として表した場合は、以下のとおりです。
(借方)退職給付費用 500  (貸方)退職給付引当金 500
 ここで、退職給付費用のうち勤務費用及び利息費用は、退職給付債務の増加要因となる一方、期待運用収益は年金資産の増加要因となります。
 従って、当期の退職給付費用により、退職給付債務は570増加し、年金資産は100増加すると見積られます。

減少
 会社が直接、退職者に対して退職給付を支給した場合、将来の支給見込額である退職給付債務は減少します。【図2-4】の数値例では③300が支給されているので、退職給付債務は300減少することになります。
【図2-4】の数値例を仕訳に表した場合は、以下のとおりとなります。
(借方)退職給付引当金 300  (貸方)現金預金 300
企業年金制度を採用している場合の、外部の企業年金基金等への掛金の拠出についても、上記と同様の仕訳により処理します。
期末残高
【図2-7】
 20170906退職給付会計7.jpg

 退職給付引当金・期末残高を算出する際には、その構成要素ごとの期末残高を算出する必要があります。
【図2-7】の数値例の場合、各構成要素それぞれの期末残高は以下のように算出します。
なお、当期において新たな数理計算上の差異及び過去勤務費用は発生していないと仮定します。
 ⑬退職給付債務=⑤期首1,950+⑨勤務費用・利息費用570-③退職給付支給300=2,220
 ⑭年金資産=⑥期首600+⑫期待運用収益100=700
 ⑮未認識数理計算上の差異=⑦期首50-⑩処理額10=40
 ⑯未認識過去勤務費用=⑧期首100-⑪処理額20=80
上記構成要素を基に、退職給付引当金の期末残高を算出した場合は以下のとおりです。
④退職給付引当金(期末)=⑬2,220-⑭700-⑮40-⑯80=1,400
従って、期末のB/Sに計上される退職給付引当金の金額は1,400となります。


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