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退職給付会計①-退職給付会計とは [会計処理-退職給付会計]

1. 退職給付会計

 退職給付とは、退職一時金や、退職年金といった従業員の退職に伴って支給される退職金のことをいいます。企業にとって、退職給付は従業員に対する負債です。従業員の勤務期間が増えるほど、企業は退職給付の支払額が年々、大きくなっていきます。
 会計上、企業はこのような実態を、毎期のB/S及びP/Lに適切に反映させる必要がありますが、退職給付は実際の支払額が確定するまでに時間がかかるため、毎期の負担額を正確に把握することは困難であるといえます。そこで、毎期の負担額を合理的に見積るために、一定の方法が定められました。この方法が退職給付会計です。
 「退職給付に関する会計基準」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」が公表され、平成24年5月17日に公表されました。未認識数理計算上の差異等をオンバランスする等、国際的な会計基準とのコンバージェンスを図る観点から改正が行われています。

2. 退職給付債務
【留意点】
 退職給付は、従業員の勤務期間に応じて年々増えていくことから、従業員に対する後払いの労働対価であると考えられます。
 退職給付債務とは、将来見込まれる退職給付の支払総額のうち、当会計期間までに発生していると認められる部分をいいます。
【図1-1】
 20170909退職給付会計.jpg

3. 退職給付債務の毎期発生額と、割引計算
【留意点】
 退職給付債務の毎期発生額は、期間定額基準または給付算定式基準により見積られます。
 退職給付は支出までに相当の期間があることから、退職給付債務の算定の際には、時間価値を考慮して、割引計算を行う必要があります。
【図1-2】
 20170909退職給付会計2.jpg
期間定額基準

 将来の退職給付見込額を従業員の勤務期間で割った額を、毎期の発生額とする方法です。上記図表の前提であれば、3年目の退職給付見込額は300であり、各期の発生額は100(=300÷3年)となります。
 20170909退職給付会計3.jpg
 なお、将来の退職給付見込額は、予想される昇給および従業員の退職率や死亡率などさまざまな変動要因を加味して、見積られます。

給付算定式基準
 20170909退職給付会計4.jpg
 退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法です。従業員が1年以内に退職した場合には200の退職一時金、1年超3年目以内に退職した場合には300の退職一時金が支給されるという前提であれば、各期の発生額は1年目200、2年目50(={300-200}÷2年)、3年目50(={300-200}÷2年)となります。


 なお、期間定額基準と同様に、将来の退職給付見込額は、予想される昇給および従業員の退職率や死亡率などさまざまな変動要因を加味して、見積られます。

割引計算

 割引計算とは、将来の価値を現在の価値に置き直す際に用いる計算です。
 上記の【図1-2】における「※1年目発生分」を例にした場合、割引計算の考え方は以下の【図1-3】のようになります。
【図1-3】
 20170909退職給付会計5.jpg

計算方法

 期間定額基準を採用した場合、退職給付見込額300のうち、1年目に発生したと見積られる額は100となります。しかし、この3年目の100は、1年目で発生した退職給付債務に見合う金融資産を、利率2%で運用したと仮定した前提です。よって、この3年目の100には2年分の利息が含まれていることとなります。従って、2年目及び1年目現在の退職給付債務を算定するためには、それぞれ以下のような計算式により、利息部分を除外する必要があります。
 2年目(※1)... 100÷ 1.02 =98.03... ≒ 98
 1年目(※2)... 100÷(1.02)2=96.11... ≒ 96

4. 割引率
【留意点】
 割引率とは、割引計算を行うための計算上の利率をいいます。
 退職給付債務の割引計算に用いる割引率は、国債、政府機関債、優良社債といった安全性の高い債券の利回りを基礎として決定しますが、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければなりません。

割引率はなぜ安全性の高い債券の利回りを基礎とするのか

 例えば、業績が悪く倒産する危険性が高い会社の社債などは、その利率も高くなる傾向にありますが、ここで用いる割引率は、退職給付債務の計算に利用する目的であるため、倒産などのリスク要因は極力、排除する必要があります。従って、倒産といった信用リスク要因がほとんどないと考えられる国債、政府機関債や優良社債の利回りを基礎として割引率を決定することが一般的です。

退職給付支払ごとの支払見込期間を反映する方法

 割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければなりません。例えば、(1)退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、(2)退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法があります。
【設例】
前提条件
 例示の簡略化のため、退職給付は一時金制度のみを採用しているものとし、退職率等の基礎率は考慮しないものとします。 各年度の退職給付見込額は以下のとおりとします。
 20170909退職給付会計6.jpg
 割引率は優良社債の利回りを基礎に決定しているものとし、以下のとおりとします。(ここでは仮の数値を使用しています。)
 20170909退職給付会計7.jpg

(1)単一の加重平均割引率を使用した場合
 給付見込期間と給付見込金額を用いて加重平均した年数2.43年(※)を算出し、その年数に応じた利回りを基礎として割引率を算定します。
※2.43年=(50×1年+100×2年+200×3年)÷(50+100+200)

(2)複数の割引率を使用する方法

 1年後の退職給付見込額50については1%、2年後の退職給付見込額100については2%、3年後の退職給付見込額200については3%の割引率を用います。


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