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退職給付会計における割引率の重要性基準(10%基準)の適用 [会計処理-退職給付会計]

10%基準の存続
 割引率等の計算基礎については、重要な変動が生じていない場合には、見直さないことができるとされています(「退職給付に関する会計基準」(注8))。重要な変動が生じていないかどうかについては、「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)29項により、30項(割引率)、31項(長期期待運用収益率)、32項(予想昇給率や退職率等その他の計算基礎)に従って判断を行うことになります。
 計算基礎のうちの割引率については、適用指針30項に従いますが、その判断について、いわゆる10%基準が定められています。10%基準とは、前期末に用いた割引率により算定した場合の退職給付債務と比較して、当期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定されるときには、重要な影響を及ぼすものとして当期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければならないとする取扱いです。

 この基準をそのまま適用すると、10%以上になった途端に、割引率の見直しが発生し、その見直しによる影響額が数理計算上の差異になることから、(今後、連結上の)退職給付債務の額と、その他の包括利益に大きなインパクトが生じ得ることになります。このルールには批判的な意見も見られ、10%基準を適用しないことに変更することを検討している企業があるようです。10%基準を適用していた企業が適用しないことに変更する場合は、会計方針の変更には該当しないものと考えられます。


10%基準を適用初年度の期首についてのみ適用しないことの可否
 企業会計基準委員会から、平成25年11月5日付で、「企業会計基準第26号『退職給付に関する会計基準』及び同適用指針の解説の一部追加』」が公表されており、次のような見解が示されています。

 すなわち、「割引率変更の要否を判定する際に、これまで重要性基準を考慮してきたが、適用初年度の期首において重要性基準を考慮せずに、適用指針第24 項に基づいて決定された割引率を使用する場合がある。割引率の変更により発生した差異は、通常は、当該年度に発生する数理計算上の差異に含めて、企業の採用する費用処理方法及び費用処理年数に従って処理されるが、この適用初年度の期首における場合には、本会計基準等の適用に伴う会計方針の変更の影響額に含めて、期首の利益剰余金に加減する取扱いも認められると考えられる。また、この場合でも翌年度以後の割引率の決定において再度重要性基準を考慮することも認められると考えられる」と記述されています。
①従来10%基準を適用してきた企業が今後も継続適用するパターン、②従来10%基準を適用してきた企業が適用初年度の期首から同時にその適用を取り止めるパターンの二つは、いずれも問題ないものとして認識されていたと思われますが、さらにもう一つのパターンとして、③従来10%基準を適用してきた企業が適用初年度の期首においてのみ10%基準を考慮しないで新基準による割引率を使用し、翌年度以後の割引率の決定において再度重要性基準を考慮するというパターンについても認められる旨の見解が示されたことになります。
この見解に従えば、適用初年度の期首に10%基準を考慮しないことにより、割引率の見直しが発生しますが、その影響額は数理計算上の差異に含めないで、期首の利益剰余金の増減で処理でき、また、適用初年度の期末以後の割引率の決定において再度重要性基準を考慮することも認められるということになります。

10%基準の適用に係る三つのパターン
 上記の見解を踏まえた場合、従来10%基準を適用してきた企業の今後の10%基準の適用に係る対応として、次の三つのパターンがあり得るということになります。
10%基準適用の考慮の有無に係る3パターン
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割引率に関する検討課題
 平成24年5月17日付の「退職給付に関する会計基準」の改正により、割引率の取扱いそのものが改正されています。改正後の取扱いでは、IFRSなどの国際的な会計基準と同様に、例えば①退職給付の支給見込期間及び支給見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、②退職給付の支給見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法(=イールドカーブ1直接アプローチ)が含まれるとされました(退職給付会計基準24項)。
 公益財団法人日本年金数理人会及び公益法人日本アクチュアリー会から公表されている「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」によれば、下記のようなアプローチが採用されています。実務上は、これらの方法のうちの一定の方法を利用することになります。

①単一の加重平均割引率
  イールドカーブ等価アプローチ
デュレーションアプローチ
加重平均期間アプローチ

②複数の割引率
イールドカーブ直接アプローチ

 結論として、各企業は適用初年度に向けて、次の二つの観点から方針を定めていく必要があります。第一に、割引率の算定方法について上記の四つのアプローチのうちのいずれを採用するのか、第二に、10%基準の適用に関して先に示した3パターンのいずれの対応方針とするのか、以上の検討課題をクリアして、適用初年度に臨むことになります。

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